「人種」という紛らわしい言葉があるため,現代人は3〜5程度の種に分類されると,しばしば誤解されている。しかし見かけこそ違え,世界中の現代人は遺伝子の類似性が極めて高く,生物学的にただ1つの種,ホモ・サピエンスに属している。「人種」というのは,ホモ・サピエンス種の中にいくつかの地域集団を指す言葉で,生物学的な種を意味するものではない。アジア人もアフリカ人もヨーロッパ人も,みなホモ・サピエンスで,現在地球上にいる人類の中に,ホモ・サピエンス以外の種はいない。
しかし過去には,当然,ホモ・サピエンスとは異なる種の人類が存在した。ホモ・エレクトスやアウストラロピテクス・アファレンシスといった学名のついた連中が,それである。人類の化石が発見されると,人類学者はそれについて様々に検討し,どの種に分類するかを判断する。その際,それぞれの種をどう定義するかが問題になるが,ホモ・サピエンスという種の定義にもいくつかの異なる考えがある。
海部陽介 (2005). 人類がたどってきた道:“文化の多様化”の起源を探る 日本放送出版協会 pp.24-25
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