ホモ・サピエンスのアフリカ起源説は,過去十数年にわたる論争を経て,今ではまず間違いなく正しいと認識されるようになっている。詳細については研究者によって多少考えが違うところもあるが,そのおおよそのシナリオは,以下のようなものである。
アフリカ起源説は,世界中のすべての現代人の起源は,20万〜5万年ほど前のアフリカにあるとする。厳密に広いアフリカの中のどこで誕生したのかはまだ明らかではない。しかしいずれにせよ,私達の共通祖先が約20万年前にアフリカの旧人から進化し,その後しばらくしてから世界中へ広がった結果,各地の現代人集団が成立したのだ。
ホモ・サピエンスがアフリカからユーラシアへ進出したとき,この大陸の中〜低緯度地域には,旧人の集団(一部地域では原人の集団)がいた。ヨーロッパにはネアンデルタール人がおり,東アジアには,中国のマパ,ターリー,ジンニュウシャンなどの化石に代表される,別の旧人集団がいた。そしておそらくインドネシア地域には,旧人と呼べる段階までは進化していなかったジャワ原人の最後のグループがいたと考えられている。ホモ・サピエンスの到来とともに,これらの原始的な人類はいなくなる。何が直接の原因で,実際にどのような過程を経て彼らが消えていったのかは,まだ十分にわかっていない。ともあれネアンデルタール人にせよ北京原人やジャワ原人の子孫にせよ,ユーラシアにいた古いタイプの人類は最終的に絶滅し,私たちの直接の祖先とはならなかったのである。
海部陽介 (2005). 人類がたどってきた道:“文化の多様化”の起源を探る 日本放送出版協会 pp.40-41
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