今では,ネアンデルタール人はヨーロッパで進化した種であると,自信をもって言える状況となってきている。スペインのアタプエルカ,ドイツのハイデルベルグ,フランスのアラゴ,ギリシャのペトラロナなど見つかっている50万〜30万年前の化石に,部分的ながらもネアンデルタール人的特徴が認められるからである。
ネアンデルタール人は,寒いヨーロッパの氷期を生き抜いた人類である。そして,彼らの身体特徴の一部は,寒さに適応した構造となっていた。彼らの大きな鼻は,乾燥した冷たい空気を吸い込むとき,鼻の内部の粘膜から適度な湿気を与えるのに都合がよかったと,一般に考えられている。彼らの前腕(肘から手首までの部分)と下腿(すねの部分)は短かったが,これは,現代人の中でもシベリアの北方民族などに認められるもので,同じグループの動物で寒冷地に住む集団ほど四肢の遠位端(人間の前腕と下腿に相当する部分)が短くなるという,アレンの法則と合致するものだ。寒い地域では,四肢を短くしたほうが身体の体積あたりの表面積が減り,体熱を失いにくい利点があるのである。一方のクロマニョン人は,前腕と下腿が長く,体熱を放散するのに適した身体つきをしていた。これは,彼らが熱帯地方からやってきた集団であったことを物語っている。
海部陽介 (2005). 人類がたどってきた道:“文化の多様化”の起源を探る 日本放送出版協会 pp.109-110
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