部族内での個人間の関係はどうだったのであろうか。ネアンデルタール人たちが傷ついた仲間を介護していたという考えは,すっかり定説となっている。彼らの骨には多くの怪我の痕跡があるが,重傷なものでも治癒傾向の認められる場合が多い。つまり怪我してすぐに息を引き取ったのではなく,しばらくの間は生きていたのだ。有名なのは,イラクのシャニダール洞窟で見つかった男性だ。左眼は失明していたかもしれず,右腕の肘から先を失い,右足は引きずって歩くような状態であったにもかかわらず,この男性は40歳ぐらいと,ネアンデルタール人としては例外的に長生きをした。通常の野生動物であれば,こうはいかない。仲間からサポートを受けていたと考えるのが,最も自然である。ただしこのような仲間のサポートという行為は,もっと古く,彼らよりも100万年以上前の原人のころから存在していた可能性も示唆されている。
海部陽介 (2005). 人類がたどってきた道:“文化の多様化”の起源を探る 日本放送出版協会 pp.121-122
PR