その要点を述べると,まずアイヌはモンゴロイドの一員であり,コーカソイドではない。アイヌは,日本列島に縄文時代あるいはそれ以前からいた人々の系譜を強く受け継いでいるようだ。一方,アイヌ以外の日本人も決して均一な集団ではない。弥生〜古墳時代の西日本に,大陸から稲作と金属器文化を携えた北方モンゴロイド系集団の移住があり,この渡来集団と在来の縄文系集団との混血のもとに,現在の日本人が形成された。この混血の程度は,地域,個人によって様々である。琉球列島の人々も縄文人の系譜を強く受け継いでいるという考え方があるが,九州,台湾,大陸との長い接触の歴史の中で,状況は複雑であった可能性が高い。
このように日本人とは,(南方モンゴロイドと関連づけられるかもしれない)縄文人と,大陸からやって来た北方モンゴロイド系の渡来集団との二重構造性をもっているのである。ただし現時点では,いくつか未解決の大きな問題も残されている。その1つは,縄文人のそもそもの故郷はアジア大陸のどこなのかというものだ。縄文人は,身体的特徴の上では南方モンゴロイドと近いのだが,遺伝学的,考古学的には,むしろアジアの北方地域との関連が深いようだ。もしこれらのどの観測もが正しいとするのなら,縄文人の祖先は北アジアにいた北方モンゴロイドに特殊化する前の段階の集団,ということになるのだろうか。謎が解けるよう,今後の研究の進展を待ちたい。
海部陽介 (2005). 人類がたどってきた道:“文化の多様化”の起源を探る 日本放送出版協会 pp.181
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