アボリジニについてのイメージや宣伝文句には,的外れのものが少なくない。旧石器時代の生活を今でも続ける人々,砂漠に暮らす先住民,現存する人類最古の文化……,どれもオーストラリアの先史文化のダイナミズムを見誤っている。
アボリジニは,5万年ほど前にオーストラリアへやってきたと考えられている。そして土器を作らず,農耕や牧畜をはじめることなく,ごく最近まで狩猟採集生活を続けていた(一部集団は今でも意図してそうした暮らしを続けている)。しかし後で述べるように,この間,彼らの文化が不変であったわけではない。アボリジニの祖先たちは半砂漠環境へもチャレンジし,文化的適応を果たした。しかしすべてのアボリジニが,好んで乾燥地帯に暮らしていたのではない。彼らはもともとオーストラリア全土に広がっていたが,1788年にイギリスがシドニーに入植して以来,過ごしやすい土地を追われたのだ。アメリカ先住民などの例と同じで,現在の彼らの分布は本来のものではない。
海部陽介 (2005). 人類がたどってきた道:“文化の多様化”の起源を探る 日本放送出版協会 pp.190-191
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