わかったことは,こうした遺伝的な差異のあいだの相関関係が重要であるということである。もしも集団間の遺伝的な差異が,特定の方向に向かいがちであるなら,つまり,ある傾向が有利になる流れがあるなら,そうした差異が合わさって,大きな効果を生むこともありえる。たとえば,イヌでは,成長に影響する遺伝子が確かにたくさんある。そうした遺伝子の変異体の中には,成長を促進するものもあれば,逆に成長を妨げるものもある。グレートデーンとチワワの両方で,成長を促進する遺伝子変異も成長を妨げる遺伝子変異も見つかるとしても,傾向は異なっているに違いない。成長を促す変異は,グレートデーンに多く見られるはずだ。中にはある遺伝子の成長阻害変異をもつグレートデーンもいるかもしれないし,逆に成長促進変異をもつチワワもいるだろうが,グレートデーンでは,多くの遺伝子の効果の総和は,ほぼ間違いなく成長促進方向に向いていると言って差し支えないだろう。というのも,私たち知る限りでは,グレートデーンの成犬よりも大きいチワワの成犬は一匹もいないからだ。同じように,ハワイ州のヒロよりもニューメキシコ州のアルバカーキのほうが降水量の多い日はあるだろう。しかし,一年を通して見た場合,ヒロのほうが,雨が多いことはほぼ確実である。そしてこれは,気象記録が残っている範囲では,毎年のことだ。
グレゴリー・コクラン,ヘンリー・ハーペンディング 古川奈々子(訳) (2010). 一万年の進化爆発:文明が進化を加速した 日経BP社 pp.25
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