ネアンデルタール人が現生人類に競争の上で劣っていたという考え方に対して,まことにばかばかしい批判がなされることがある。いわく,そのような考え方は人種差別主義的である,と。なぜか,50万年前に現生人類と分かれた集団(現生人類とは異なる種であると一般に考えられている)が,なんらかの生物学的弱点をもっていたと主張することは言語道断というわけだ。私たち現生人類が現代まで生き延び,ネアンデルタール人は生き残れなかったにもかかわらず,である。さらに言えば,私たちがもついくつかの遺伝子は旧人類に由来するものだという考えは人種差別的だと言う人がいる一方で,人がネアンデルタール人の遺伝子を受け継いでいないという考え方は人種差別主義的だと論じる人もいるのである。
グレゴリー・コクラン,ヘンリー・ハーペンディング 古川奈々子(訳) (2010). 一万年の進化爆発:文明が進化を加速した 日経BP社 pp.39
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