ユダヤ人の卓越した知能は衝撃的である。先ほど述べたように,アシュケナージ系ユダヤ人科学者の数は並はずれて多い。著名な科学者の中でアシュケナージ系ユダヤ人が占める割合は,合衆国とヨーロッパで彼らの人口比率を考慮した予想よりも10倍も高いことになる。過去2世代において,彼らはすべての科学関連のノーベル賞の4分の1以上を獲得したが,彼らの数は世界人口の600分の1にも満たないのである。彼らは米国人口の3パーセント未満にしかすぎないのに,その期間のアメリカ人に授与された科学関連のノーベル賞の27パーセント,そしてチューリング賞(毎年,計算機学会[ACM]によって与えられる賞)の25パーセントを彼らが獲得している。また,20世紀の世界チェスチャンピオンの半数はアシュケナージ系ユダヤ人である。アメリカのユダヤ人は他の領域でも多くの第一人者を輩出している。たとえば,ビジネスにおいては,最高経営責任者の約5分の1,学問ではアイビーリーグの学生の約22パーセントを彼らが占めている。こうした統計は広範な分野における知能の高さを示しているが,私たちは科学と数学の業績を判断の基準とする。科学や数学における評価のほうが,ほかの分野の評価よりも客観的だと考えられるからだ。科学と数学での重要な発見の定義については,人々の意見は一致しているが,芸術や文学における業績を評価する,それと類似した客観的基準はない。たとえば,フロイト派の理論は,心理学における画期的な成果なのか,それとも「ペット・ロック」(1970年代にアメリカで,ペットに見立てた石が売り出されたところ,大ヒットした)と同じ,ばかげた一時的流行なのか?私たちにはその答えはわからないが(とはいえ,強い疑いをもっているが),答えを見つけるための客観的な方法はない。
グレゴリー・コクラン,ヘンリー・ハーペンディング 古川奈々子(訳) (2010). 一万年の進化爆発:文明が進化を加速した 日経BP社 pp.234-235
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