自分が信じないものより信じたいもの(信じようという動機づけがなされているもの)をやすやすと認める傾向は,「動機づけられた推論」として知られる。確証バイアスの逆パターンとも言える。確証バイアスが自分の信念に一致するデータに無意識のうちに目が行く傾向であるのに対し,「動機づけられた推論」は,自分が信じる考えより信じない考えのほうに目くじらを立ててチェックを入れる,逆の傾向だ。クンダが行った実験を見てみよう。彼は男女半々の被験者にカフェインが女性によくないとする記事を読んでもらった。私たちの信念——そして推論過程——は動機づけの有無によって汚染されるという考えどおり,カフェイン入りの飲み物をたくさん飲む女性は,そうした飲み物をそれほど飲まない女性に比べて,記事に強い疑念を示した。その一方で,自分にはかかわりがないと感じた男性には,そうした傾向は見られなかった。
ゲアリー・マーカス 鍛原多恵子(訳) (2009). 脳はあり合わせの材料から生まれた:それでもヒトの「アタマ」がうまく機能するわけ 早川書房 pp.83
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