生物に信念の汚染,確証バイアス,動機づけられた推論といった傾向をすべて兼ね備えさせてやれば,そう,ほとんど何でも喜んで信じ込む種が生まれる。歴史を振り返れば,人間は,(それを否定する証拠にもかかわらず)平らな地球,幽霊,魔女,占星術,動物の霊,自分を鞭打つことや瀉血の効用などを信じてきた。幸いなことに,これらの信念の多くは現在では消滅しているが,一部の人はいまだに額に汗して貯めた金を霊能者のお告げや降霊会につぎ込む。私自身,はしごの下を歩くのを躊躇うこともあることを白状しておこう(訳注 はしごの下を歩くと死ぬという古い言い伝えがある)。政治に目を向ければ,2003年のイラク侵攻の18ヵ月後,ジョージ・W・ブッシュに1票を投じた人びとの58パーセントは,イラクに大量破壊兵器があるとまだ信じていた。これを否定する証拠があったにもかかわらず,である。
そして,ブッシュ本人の逸話がある。彼は全知全能の神と個人的に直に話をすることができると信じていると伝えられている。そのこと自体は選挙に当選するためには有利に働いた。アメリカの民間調査機関ピュー・リサーチセンターが2007年2月に発表した調査によると,アメリカ人の63パーセントは神を信じない人物には投票しないと答えたという。
ゲアリー・マーカス 鍛原多恵子(訳) (2009). 脳はあり合わせの材料から生まれた:それでもヒトの「アタマ」がうまく機能するわけ 早川書房 pp.85
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