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I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   

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言葉の変化の理由

 コンピュータ言語の単語は,1つに定まった意味を持つ。だが人間の言語では単語の意味がつねに変化している。ある世代では「bad」は「悪い」を意味するかもしれないが,次の世代の「bad」は「いい(グッド)」を意味する。なぜ言語はこれほど速く変化してしまうのか。
 答えの一部は,言語を持つ前の私たちの祖先がどう世界を見ていたかにある。彼らは正確さを尊ぶ哲学者でも数学者でもなく,つねに先を急ぐ動物だった。完全な解決策より「間に合わせ」の解決策で我慢することがしばしばだったのだ。
 セコイアの森を散策中に樹の幹を見たとしよう。あなたはおそらく木を見ていると考える。その幹が高くて,上に葉が生い茂っているかどうかわからないにしても。不完全な証拠(葉も根も視界になく幹が見えるだけでも,私たちは自分が木を見ていると結論づける)に基づいて瞬時の判断を下すやり方は,「部分一致」と呼ばれる。
 むろん,このやり方の論理的なアンチテーゼは,全体を見るまで待つことである。これは「完全一致」と呼ばれる。おわかりのように,木全体を見るまで待つ人は間違いを犯すことはないが,たくさんの木を見逃す危険を冒すことになる。進化は素早い決断を下す者に報い,気難しい者を好まない。
 よくも悪くも,言語はこのシステムをそっくり受け継いでいる。あなたは,椅子が四本の脚,背当て,座るための平らな面を持つ物体と考えるかもしれない。しかし哲学者のルードヴィヒ・ヴィトゲンシュタイン(1889〜1951)が指摘したように,これほど厳密に定義された概念はこの世にそれほど多くはない。ビーンバッグチェアはやはり椅子の一種と考えられていても,背当てや脚はない。

ゲアリー・マーカス 鍛原多恵子(訳) (2009). 脳はあり合わせの材料から生まれた:それでもヒトの「アタマ」がうまく機能するわけ 早川書房 pp.161-162
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