人には休むことも必要だし,私はそのことに文句を言っているわけではない。それにしても物事を先へ先へと送る性向は,私たちの認知「デザイン」における根本的な欠陥を浮き彫りにしている。すなわち,目的を設定する装置(オフライン)と果たすべき目的を選ぶ装置(現在はオンライン)のあいだにギャップがあるのだ。
後回しにしたくなる仕事は,一般に2つの条件を満たしている。それが私たちにとっても楽しくないこと,今すぐする必要がないことである。少しでも機会があれば,私たちは嫌なことを先延ばしにし,楽しいことをする。その結果,いつかは払うことになる代償については考えないことが多い。要するに,先延ばしとは将来を度外視する悪癖(現在より将来を軽んじる傾向)であり,快楽をお手軽だが当てにならない羅針盤として使うことである。
私たちは集中力を欠き,無精を決め込み,ごまかす。人間であることは,自制心を求める生涯をかけた戦いなのだ。なぜか?進化は私たちに理にかなった目的を設定する知性を与えてくれはしたが,それを完遂する意思を授けてはくれなかったからだ。
ゲアリー・マーカス 鍛原多恵子(訳) (2009). 脳はあり合わせの材料から生まれた:それでもヒトの「アタマ」がうまく機能するわけ 早川書房 pp.216-217
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