「減量する」とか「期日の前にこの論文を書き終える」といったはっきりしない目的を守るのは難しい。それにただ目的を具体的にすれば(3キログラム痩せる)いいというものでもない。心理学者のピーター・ゴルヴィツァーの研究によれば,目的を具体的な予備案——「XならばYである」というif-thenの形(「フレンチフライを見たら,避ける」)——に書き直すだけで,成功率を著しく改善できるという。
私たちのクルージ性を見つめれば,反射的な祖先型システムに継ぎ足された最近の熟慮型システムが,脳の舵取りをする機会が少ないわけは一目瞭然である。情報という情報はほとんどすべて古い祖先型・反射型システムを通らねばならないからだ。だから抽象的な目的を祖先型システムが理解できる形(すべての反射作用の基本であるif-then形式)に変換すれば,具体的な予備案によって脳の限界を回避できる。古いシステムの言語で話してやれば,目的達成の可能性を増やせるのである。
ゲアリー・マーカス 鍛原多恵子(訳) (2009). 脳はあり合わせの材料から生まれた:それでもヒトの「アタマ」がうまく機能するわけ 早川書房 pp.243-244
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