我々の大きさは,いろいろな意味で興味深い。人類が進化していくうちに,だんだん大きくなったらしい。大きく見れば,天文学的領域と原子より小さい世界とのちょうど真中にいることがわかる。地球上で考えると,地球にいる生物の大きさの範囲内ではごく平凡な位置になるものの,二足歩行するものとしては最大であるという点が目立っている。その大きさは,我々がたどってきた社会的・技術的発達のパターンにとっても重大だったらしい。我々がこの大きさだからこそ,個体における分子結合を切るだけの力が出せる。つまり石を砕いたり彫ったり,燧石のような硬い素材を研いだりすることができる。金属を曲げて加工できる。十分な運動エネルギーで石を投げ,棒をふりまわし,他の動物だけでなく,同類を殺すこともできる。こうした能力は,我々がずっと小さかったら当然なかったものであるが,我々が進化する上では重大な役割を演じているものである。それによって初期のテクノロジーが発達できた。しかしそれによってすぐ命を奪えるような力を振るえる危険な好戦的種にもなった。急速な進歩を可能にしたが,進歩をすべて終わらせる手段をももたらしてしまった。
ジョン・D・バロウ 松浦俊輔(訳) (2000). 科学にわからないことがある理由 青土社 pp.206-208
(Barrow, J. D. (1998). Impossibility: The limits of science and the science of limits. Oxford: Oxford University Press.)
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