“自分の世界”があるのが,そんなに偉いのかと思う。自分で書いて自分で歌うというだけで,アーティストなのか。中途半端なオリジナリティで「アーティストです」などという顔をされるのは,そろそろみんなうんざりしていないか。ルックスがよくて詩の書ける女の子(男の子)の歌に感心したいのか,質の高い音楽が欲しいのかどっちなんだろう。だってJ-POPをネット配信で聞きながら,アーティストのアート作品を体験してるなんて誰も思っていないわけでしょ?そんな疑問をよそに,若者の間では「どんなアーティストが好き?」は,「どんなシンガーソングライターが好き?」とほぼ同義となっている。言葉と存在の妙な捩れへの違和感は,そこにはない。この調子でいくとそのうち,かつて「アーティスト」にどれほどのプラスの価値が読み込まれ,そこにどのような願望が込められていたのか,知る者はいなくなるかもしれない。
大野左紀子 (2011). アーティスト症候群:アートと職人,クリエイターと芸能人 河出書房新社 pp.47
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