ところが,職人になりたいという若者が目立って増えているかというと,アナウンスの徹底不足なのかそういう話はあまり聞かない。「アーティストになりたい」は憧れの言葉であることが多いが,「職人になりたい」はどちらかというと覚悟の言葉だから,おいそれとは口に出すことはできないのである。どちらも修行や修練は必要だが,職人修業のほうが厳しく辛いというイメージがある。親方に怒鳴られながら歯を食いしばって薄給に耐え忍び日々是鍛錬……古典的過ぎるがそんな見習いの姿も思い浮かぶ。
かといって,一方のアーティストの需要は,職人以上に少ない。それを目指しても,実際なれる人は一握りだし,職人以上に生活の糧を得る見通しは暗い。では,アーティストでもなし,職人でもなし,でも何かモノ作りに関わりたい……という人が目指すのは何だろうか。
クリエイターである。
大野左紀子 (2011). アーティスト症候群:アートと職人,クリエイターと芸能人 河出書房新社 pp.144
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