ダーウィンは,ヴィクトリア朝時代のすべての人間と同じように,人類に見られる差異を強く意識していたが,彼の同時代のほとんどの人間よりもよりいっそうヒトという種の根本的な均一性を強調した。『由来』において,「さまざまな人種は別種とみなすべきだ」という彼の時代にかなり好まれていた考え方を慎重に考察し,断固としてそれを退けた。現在では,人類は遺伝しレベルで,十二分に均一なことがわかっている。全世界の人類集団のあいだの遺伝的変異よりも,アフリカの小さな地域内のチンパンジーのあいだに見られる遺伝的変異のほうが大きいと言われている(人類が過去数十万年のあいだに隘路(ボトルネック)を通過してきたことを示唆している)。さらに,ヒトの遺伝的変異の大多数は人種間ではなく,人種内に見られる。これが意味するのは,1つの人種を除くすべての人類が消滅させられたとしても,ヒトの遺伝的変異の大部分は残るだろうということである。人種間の変異は,すべての人種内にある大量の変異のてっぺんに載せられたほんのちょっとの付け足しなのである。これこそ,多くの遺伝学者が人種という概念を完全に放棄するように提唱する理由なのである。
リチャード・ドーキンス 垂水雄二(訳) (2004). 悪魔に仕える牧師 なぜ科学は「神』を必要としないのか 早川書房 p.139.
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