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I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   

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マズローから言うと

 さて,これを仕事に当てはめてみよう。
1 生理的欲求——普通に生活できるだけの報酬が約束されている
2 安全の欲求——3K(危険,汚い,キツい)ワークではない
3 親和(所属愛)の欲求——身分の保証があり安定している
4 自我(自尊)の欲求——世間体のいい職種である
5 自己実現の欲求——自分の能力や才能を発揮できる創造的な仕事である
 マズローの理論に従えば,「自己実現できる仕事」とは,1から4までが満たされた上で手に入るという,大層贅沢なものになる。
 いったいどれだけの人が,そんな仕事に就けているだろうか。おそらく労働者全体の1割にも満たないのではないかと思われる。3までクリアしていれば御の字で,1の条件を満たす仕事にありつくだけで精一杯,それすらままならない人も最近は少なくないだろう。
 ところが,アーティストという仕事だけは違うのだ。他の何よりも優先されるのは,5の自己実現の欲求である。
 つまり「アーティストになりたい」と思う人は,普通の人が順番に辿るとされる欲求の段階をすっとばして,いきなり5の「自己実現の欲求」に至っているわけである。マズロー博士もびっくりの欲求の飛び級。
 アーティストは,「食い扶持を稼ぐための仕事」をしている人とは違う。学歴も資格も経験も関係ない。毎日会社に行ってタイムカードを押す必要もない。上司におべんちゃら言う必要もない。営業先で頭を下げる必要もない。自分に合わない部署で苦労する必要もない。残業もない。いや「好きなこと」をやっているのだから残業大歓迎。
 自分と同じようなレベルの他人と競いながらあくせく働き,永遠に満たされないであろう5の欲求不満に悩むより,アーティストになって「自分流」に生きたほうが,よほど自尊心を満足させられそうに思えてくる。

大野左紀子 (2011). アーティスト症候群:アートと職人,クリエイターと芸能人 河出書房新社 pp.223-224
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