さて,自殺率は,年間に人口10万人あたりに生じる自殺者数によって表される。1990年代半ばまでは日本の自殺率は人口10万人あたり17〜18であった。この率はドイツよりもやや高く,フランスよりもやや低いというものだった。要するに,ヨーロッパ諸国と比べると,ほぼ中位の率を示していたのだ。「自殺大国日本」の固定観念をいだいて取材にきた欧米の特派員の取材の際に,このような事実を指摘すると,意外な事実に驚くといった場面によく出くわしたものである。
ところが,1990年代末から我が国の自殺者数が急増し,2001年には自殺率は人口10万人あたり約24になった。ヨーロッパ諸国に比べて,上位国の一角と肩を並べるほどになったのだ。
とはいえ,日本よりはるかに高い自殺率を示す国があることも事実である。たとえば,リトアニア,ラトビアといったバルト三国,ロシア,ハンガリーなどの自殺率は,人口10万人あたり40前後を示している。自殺率は社会の不安度を示す指標でもある。社会体制や社会的価値の急激な変化が起きている国で自殺率の激増が認められることが知られている。旧ソビエト連邦から独立を果たしたものの。社会的な安定を十分に果たしていないバルト三国が高い自殺率を示していることなどは,この点を象徴的に表していると考えられる。
高橋祥友 (2003). 中高年自殺:その実態と予防のために pp.67-69
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