ラーメンを利用したプロパガンダの目的が,東京へのオリンピックの招致であるというのはただ単に滑稽な話に過ぎない。だが,ラーメンの人気がそれ以外のものと結びつくこともある。例えば,新興宗教である。
1990年代に存在した「うまかろう安かろう亭」は,オウム真理教(当時)が活動資金集めのために経営していたフランチャイズのラーメンチェーンである。当時のラーメンブームに乗り,オウムとの関係を隠して都内を中心に約10店舗まで拡大していた。
1995年3月。地下鉄サリン事件という未曾有の大規模無差別テロ事件が発生し,まもなくしてそれがオウム真理教の犯行であることが周知の事実になった。その頃には「うまかろう安かろう亭」が,オウム真理教と関係があり,店員がオウム信者であることも周知の事実となっていた。こうした状況に店側も開き直り,オウム真理教のテーマ曲などを流すようになり,当時“オウマー”と呼ばれた,オウム真理教の悪趣味を笑うような“ウォッチャー”たちが冷やかしで店に訪れたりしていたものだった。
このラーメンチェーンを運営していたのは「マハーポーシャ」という南青山に本拠を置くパソコン販売を本業としたオウム真理教の関連企業だった。「マハーポーシャ」のパソコンショップは秋葉原などに店舗を持ち,台湾製の安い部品などを使った激安パソコンを販売していた。店員は「うまかろう安かろう亭」同様,オウム信者たちでありサリンプラントのあった山梨県の上九一色村(当時)のサティアンと呼ばれた施設で商品のパソコンの組み立てが行われていたという。
オウム真理教は,原始仏教をベースに,ヨガ,超常体験,オカルト,反権力,そしてアニメなどのサブカルチャーの要素を教団の活動の中身に取り込んでいった。そして,そんな旧来の宗教とは違った要素を持つ教団の在り方に興味を抱いた多くの若者を取り込んでいったのだ。オウム真理教が,若い信者を使っての信者・資金集めの手段として,パソコンの組み立て販売とラーメン屋の経営を選んだのも,こうした若者世代取り込みのための戦略だったのだろう。
速水健朗 (2011). ラーメンと愛国 講談社 pp.227-228
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