ところで,ハーヴァード大学といっても,当時は今のように制度化されておらず,そもそも入学試験すらなかった。入学以前の学歴も問われず,ある少年が18歳になっていて,指導を受けたいと思う教授の許可を得られれば入学することができた。在籍期間もさまざまで,18か月から30か月というのが普通であった。学位も,学生の準備が十分であると教授が認めれば,試験を受けて取得することができた。共通のカリキュラムもなく,ただ指導教授の指導を受けるだけであった。その後,1869年にジェームズの最初の師であるエリオットがハーヴァード大学の学長になり,カリキュラムを整備し,入試制度を作ったのである。自由選択科目を導入するなどしたエリオットは,学生から古典を奪った「今世紀最大の教育上の犯罪者」とまで呼ばれるほどの改革を行なった。彼は「伝統的なカレッジの在り方に根本的な変革を加え」,その影響は他のカレッジにまで及んだ(潮木, 1993)。後にジェームズは,エリオットに招聘されてハーヴァードで生理学を教えるようになるが,それはエリオットが導入した選択科目としてであった。
藤波尚美 (2009). ウィリアム・ジェームズと心理学:現代心理学の源流 勁草書房 pp.13
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