まだ戸籍というものがない時なので,年齢はしばしばいつわって書き込まれることがある。というのは,受験資格に年齢の制限はないのであるが,ただ15歳を境にして,14歳以下は未冠,すなわち元服以前,15歳以上は己冠,すなわち元服以後として,取扱いに区別を受けるからである。古来14歳までは童子であり子供扱いをうけるが,15歳になると冠礼という元服式をあげて成人になったことを祖先の廟に報告し,以後冠をかぶって一人前の大人扱いをうけるのである。
学校試は童試といわれるように,もともとは童子,つまり14歳以前のものを対象に行う試験なので,それに対しては平易な問題を出し,また採点にも手心を加える。
ところが,そこへすでに冠をつけた老童生が割りこんでくると,それに対してはことさらに難問題を出して戸惑わせたり,あるいは辛い点をつけたりして差別待遇をする。それではたまらないと受験する童生の方は年齢をごまかして若く書きこむ。ひどいのになると,40歳,50歳になっても,まだ元服前の14歳だと称して受験する。黒々とした鬚があっては邪魔だから,きれいに剃りおとして子供に化けるのである。ほとんど皆が皆といってよいほど年齢をいつわるので,受け付ける方でも,どこを境にして法規を励行していいか分からないので,鬚さえなければどんなに顔に皺がよっていても見逃してくれる。かくして4,50歳の老童生までが14歳以下の童子で通るのである。
宮崎市定 (1963). 科挙:中国の試験地獄 中央公論社 pp.20-21
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