学校制度と科挙制度とはがんらい異なった性質をもつものであって,これを混同してはならない。学校は生徒を教育する機関であり,そのために教官が配属されているのであるが,本来,学校に長い間在学し,何度も学力試験をうけると,その優秀な者は学校を出て直ちに官吏になる試験を行なって官吏の資格を与える制度であった。そしてその試験官には臨時に任命された委員がなったのである。
しかるに後世この両者が混同され,官吏となるには科挙によるのが最も早道であり,科挙を受けるためには学校の生員でなければならぬから,ただ科挙の前段階として学校へ入る入学試験を受けるようになってきたのである。しかもその希望者が多いので,政府はこの入学試験を何段階にも分けてふるい落とさざるを得なかった。こうして入学試験がだんだんむつかしくなると,それがあたかも科挙の予備試験のようになってしまった。
しかし本来の制度は制度としてそのまま続いてきているのである。そして学校の教育的立場から実施する歳試という学力試験があるが,これこそ学校試の本体であったのだが,それが選抜試験でなく,単なる学力試験であるために,段々とその存在が無視されることになったのである。
宮崎市定 (1963). 科挙:中国の試験地獄 中央公論社 pp.46-47
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