武進士らはその成績に応じてそれぞれの武職に任命されるが,世間でも,また軍隊の中でも武進士はあまり重んじられない。戦争は政治とは違って,試験にうまく及第したからといって,それが本当に役立つとはかぎらないからである。文進士はいろいろな非難を浴びせられながらも,その中から有名な政治家や学者が数多く輩出したが,武進士で実際に戦功をたてたものはほとんどいない。
軍隊ではばがきくのは,何といっても兵卒から叩きあげ,実践で手柄をたてた将軍である。軍隊というところは一種特別な社会であり,始めからそこで苦労をつまないと兵卒の心理もわからないし,軍隊のかけひきのこつも会得できないのである。いざという時に軍隊で一番たよりになるのは兵卒上がり,行伍出身の将軍である。兵卒から信頼されなくては,どんな部隊長でも思いきった戦争はできない。結局,武進士は,内地の平穏な場所で部隊長を勤めて定年まで平凡無事にすごせばよい方で,これでは世間が一向もてはやしてくれないのも当然だということになる。
宮崎市定 (1963). 科挙:中国の試験地獄 中央公論社 pp.174
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