そもそも世の中の常として人一倍やる気を出し,努力して,結果を出した人を称賛する。たとえば益川・小林両博士などのノーベル賞受賞者は,日本の人たちからだけでなく世界中の人々から尊敬を受け,その高い学問的功績をもたらした並はずれたやる気や努力が賞賛される。しかし,正直にいえば,強いやる気は,それほど美しく称賛に値するものばかりであろうかという疑問も私の中には時々頭をもたげてくる。事実,数年前,韓国ではノーベル賞候補といわれ,多くの研究費を得ていた人の研究データが捏造されたものであったことが発覚した。日進月歩の科学の世界,学問の世界では産業界と同様,一日,一刻を争う激しい競争が展開されている。そこで戦う人たちを動かしているやる気はただ美しいものというよりは,むしろ血や汗がにじんだ見苦しい姿に変貌することがある。だが,それは最も人間的なものであることは間違いない。やる気のあり方をもとめてうごめく人間の魂そのものであるように思われる。
速水敏彦 (2012). 感情的動機づけ理論の展開:やる気の素顔 ナカニシヤ出版 pp.3-4
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