人体測定法が,あくまでカードや写真を分類するためのシステムであったことには,注意が必要である。つまり計測値によって到達できるのは,目当ての1枚を含むであろう複数枚のカードの集合までであり,たとえその集合がわずか数枚のカードにすぎないとしても,測定値だけでは,そのうちの1枚を特定することはできないのだ。ベルティヨンのシステムにおいて,最終的に身元を特定するのは,傷跡やほくろなどの場所や形を記した注記である。たとえば1884年7月31日に逮捕されたアシーユ・Dが,前年10月に逮捕されたエドゥアールと同一人物であることを,最終的に証明したのは,「右手親指載せ,斜め右向きに走った1.5センチの直線の傷跡」のような,計7ヶ所の特記事項だった。人体測定法による身元確認は,計測値によって対象を絞り込み,特記事項によって特定するという,二段階の工程を経る必要があるのである。
橋本一径 (2010). 指紋論:心霊主義から生体認証まで 青土社 pp.112
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