ことによるとみなさんは,私の主張----ある人が外界の物体の色に関して抱く所信は,「感覚様相(モダリティ)の区別がない」可能性が十分あるという主張----は非現実的だと思うかもしれない。しかしそれなら,児童心理学者たちが最近発見した事実について考えてほしい。3歳の子供は,色彩をはじめ,周囲の物体の属性についての所信にどの感覚器を通して至ったか,ほんとうにわからないことがあるようなのだ。3歳児に緑色の軟らかいボールを手に持たせ,何色か訊くと,目で見て緑と答える。硬いか軟らかいか尋ねると,握ってみて軟らかいと答える。ところが,ボールを袋に入れ,色を知るには,あるいは,硬いか軟らかいかを知るには,どうしなければならないか,中に手を入れて触ってみなければならないのか,それとも,中をのぞいてみなければならないのか,と訊くと,わからないと答える可能性が高い。
ニコラス・ハンフリー 柴田裕之(訳) (2006). 赤を見る 感覚の進化と意識の存在理由 紀伊国屋書店 pp.30-31
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