最近の文化的風潮で最も流行っているのは,子供に向かって彼らは特別だと言ってやることである。Tシャツやステッカー,車のシートにまで,「わたしは特別」と書かれている。あるときキースが娘の通う幼稚園の週間予定を見てみたところ,3歳児のクラスで毎朝「わたしは特別,わたしは特別,わたしを見て」と歌うことになっていた。キースはそんな歌よりも,「パパの言うことをきくと約束します,服を着せてくれるときにパパの顔を蹴るのをやめます」と歌うほうがいいと提案した。しかし先生が言うには,「わたしは特別」の歌は幼稚園の全国指導要綱に載っているのだという。そこでキースが子供たちはもう充分に自分をすばらしいと思っているし,自分を「特別」だと思う気持ちはナルシシズムにつながりかねないと説明すると,先生はようやくよくない歌だと納得してくれた。もちろん,一粒の雨くらいで濡れはしないように,歌一つで子供の手のつけられないナルシシストになるわけではない。だが,大雨ならずぶ濡れになってしまう。「特別」という言葉を子供に雨あられと浴びせれば,悪い影響をあたえかねないのだ。そして今日の文化は,子供も大人もずぶ濡れにするだけのナルシシズムの雨を降らせている。
ジーン・M・ドゥエンギ/W・キース・キャンベル (2011). 自己愛過剰社会 河出書房新社 pp.24
(Twenge, J. M., & Campbell, W. K. (2009). The Narcissism Epidemic: Living in the Age of Entitlement. New York: Free Press.)
PR