今日,フロイトなどの著作から,神話のナルキッソスの名がナルシシズムという人格特性を表わすのに使われている。ナルシシズムの主な特徴は,自分を非常に肯定的かつ過大にとらえることだ。ナルシシズム傾向の強い人,すなわち「ナルシシスト」は,社会的地位,容姿,知性,創造性の点で自分が人よりもすぐれていると思っている。ところが,事実はそうではない。客観的に見れば,ナルシシストはほかの人となんら変わりはない。それにもかかわらず,本人は自分が本質的に優秀だと信じている。自分は特別で,特権があって,肩を並べられる者のない人間だと思っているのだ。一方で,やさしさや思いやりに欠け,人と誠実に交わろうとしない。そこがたんに自尊心の高い人との大きな違いだ。自尊心が強くてもナルシシストでない人は人間関係を大切にするが,ナルシシストはそうではない。結果として非常に偏った人格になる。現実離れした誇大な自己像を描き,他者と深くかかわろうとしない人間なのである。
ジーン・M・ドゥエンギ/W・キース・キャンベル (2011). 自己愛過剰社会 河出書房新社 pp.27
(Twenge, J. M., & Campbell, W. K. (2009). The Narcissism Epidemic: Living in the Age of Entitlement. New York: Free Press.)
PR