私たち著者の複数世代にわたるナルシシズムの研究が2007年から2008年にメディアに取り上げられたとき,ナルシシズムは激化する競争社会のなかで必要なものなのだという意見が多く聞かれた。これもまた,アメリカ文化において自己価値とナルシシズムの区別がつけられておらず,出世のためなら何をしても許されるとの感覚が強まっていることの表れである。ミシガン大学の学生はインターネットでこんな意見を寄せてきた。「この調査をしている人は私たちほど日々競争にさらされなかったのだ。成功するには自信をもち,自分のことを中心に考えなくてはならない。だから私たちの世代が以前よりも多少『私(ミー)』にとらわれているようでも,それは私たちのせいではない」。サンディエゴ州立大学3年生のカミーユ・クラスビーは同校の学生新聞『デイリー・アズテク』紙にこう書いた。「いまの大学生は昔よりもプレッシャーやストレスが大きい。困難を乗り越えるには,自分を信じるにかぎる。自分を特別だと感じるのは意欲の表われであり,すばらしいことだ」。また,『ニューヨーク・タイムズ』紙に投稿したアトランタ出身の27歳のローレンもこう言う。「自信をもち,自分を信じることは,公私にわたって成功するための基本条件ではないだろうか。もしそれでナルシシストだと言われるのなら,自分がナルシシストであること,さらには成功者であることを誇りに思う」
ジーン・M・ドゥエンギ/W・キース・キャンベル (2011). 自己愛過剰社会 河出書房新社 pp.54-55
(Twenge, J. M., & Campbell, W. K. (2009). The Narcissism Epidemic: Living in the Age of Entitlement. New York: Free Press.)
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