犯人は3つの社会現象のようだ。ナルシシズムを刺激した第1の犯人は,自尊心のムーブメントだった。初めの動機は悪くない——どんなときも自分に満足していられたら,どんなにすばらしいだろう?そして,その後押しをしたのが,心理学者ナサニエル・ブランデンが1969年に発表した第1作『自信を育てる心理学——「自己評価」入門』だった。ブランデンは,自己愛はきわめて重要だと明言した。「人間にとってこれ以上大切な価値判断はない——心理的な発達と動機づけにおいて,何よりも決定的な要素である……自尊心は人間の思考プロセス,感情,欲求,価値観,目標に深く働きかける性質がある。人間の振る舞いの鍵になる唯一にして最も重要な要素なのである」。これまで見てきたとおり,この主張には正しいところがほとんどない。だが,当時は自尊心に関する研究がはじまったばかりで,そのころの知識からすればブランデンの言うことにも一理あった。問題は,自尊心がそれほど重要でないことが研究からわかっても,文化を見直してそのシナリオを修正しようとする者がいなかったことだ。
ジーン・M・ドゥエンギ/W・キース・キャンベル (2011). 自己愛過剰社会 河出書房新社 pp.77
(Twenge, J. M., & Campbell, W. K. (2009). The Narcissism Epidemic: Living in the Age of Entitlement. New York: Free Press.)
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