ナルシシズム流行病は,2つの考え方が文化の中心をなしたことに端を発した。「自己賛美は非常に重要だ」と「自己表現は個の確立に不可欠だ」の2つである。ナルシシズム流行病の広まりを減速させるには,この2つの価値観を修正しなくてはならない。
1つの可能性は,文化的独我論とも言うべきものに対抗することである。人は自分を賛美する必要はないし,自分を表現して存在をアピールする必要もない。しかし,いまや確立されたこの2つの価値観を直接に攻撃しても,激しい抵抗に遭うだろう。特別な人などいないという私たち著者の主張を,多くの人は信じようとしない。この話になると感情的になってしまうので,いきなり自己賛美の重要性に異を唱えても無駄な場合が多い。親として子供にはただ愛情を伝えるだけのほうがいいのだと言えば耳を傾けてもらえるが,その場合でも,子供は自分を好きだと思えなくてはいけない,そうでなければ辛い思いをすることになると反論される。この考え方はアメリカ文化にしっかりと根づいているので,これに立ち向かうのは並大抵のことではない。言ってみれば,ズボンをはかなくてもいいのだと教えるのに等しいのだ。
同様に,自己表現の重要性も文化に定着している。美術の授業,独創力,選挙の話になると,これらの活動は「自己表現」という枠のなかで語られる。これは過去になかった現象である。芸術は歴史的に見ても自己表現ではないし,独創力も選挙もそうだが,この話から自己表現を取り去ると反発されるのだ。トマス・エジソンは独創力とは1パーセントのひらめきと99パーセントの汗であると言ったが,現在の文化では,50パーセントのひらめきと10パーセントの汗と40パーセントの自己表現なのである。アメリカ人は自分を表現できるのがうれしくてたまらないので,本当はそうする必要はないことを納得させるのは至難の業だ。
ジーン・M・ドゥエンギ/W・キース・キャンベル (2011). 自己愛過剰社会 河出書房新社 pp.345-346
(Twenge, J. M., & Campbell, W. K. (2009). The Narcissism Epidemic: Living in the Age of Entitlement. New York: Free Press.)
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