現場の科学者たちは,実験室で行われていることの大半は単調で退屈だということを知っている。科学者たちは,装置類の調整をしたり,あれこれの準備をしたり,設計や修理をしたり,毎度のように起こる問題を解決したり,資金を得るために頭を下げてまわったり,することに多くの時間を費やしている。科学という営みのほとんどすべては,現時点でできることや得られている知識を,ほんの少しだけ拡張することなのだ。しかしときたま,新しい洞察にはっきりと形を与え,ものの見方を一変させるような出来事が起こる。それは,予測こそできなかったものの,起こるべくして起こった出来事だ。そんな出来事がわれわれを混乱の中から救い出し,重要なことがらをずばりと---直接的に,何の疑問も残さないほどはっきりと---指し示し,われわれの自然観を塗り替える。科学者はそんな瞬間のことを「美しい」と言うようである。
ロバート・P・クリース 青木薫(訳) (2006). 世界でもっとも美しい10の科学実験 日経BP社 pp.13-14.
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