西洋でエデンの果物と言えばリンゴ,というのは当然のことと思われていたので,私はこの本を書くための取材を通じ,ヘブライ語やギリシャ語で書かれた最初期の聖書で,その果実がリンゴに特定されているわけではないと知り,少なからず驚いた。いま常識となっている解釈は,聖ヒエロニムス(340年ごろ〜420年。考古学者や学徒の守護聖人)が,以前からあったさまざまな聖書のテキストをラテン語に統一し,ヴルガータ聖書を作った紀元400年前後に定まったようだ。教皇に命じられ,ローマで行なわれたヒエロニムスのこの翻訳作業が契機となり,聖書はより多くの人に読まれるようになった。それから600年のあいだに,ほかの言語でも聖書が翻訳され始める。その後,1455年,ヨハネス・グーテンベルクが活版印刷を考案してから,聖書は初めて大量に印刷されるようになった。グーテンベルク聖書は,千年前に編まれたヒエロニムスのラテン語を忠実に写したものである。
ダン・コッペル 黒川由美(訳) (2012). バナナの世界史:歴史を変えた果物の数奇な運命 太田出版 pp.23
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