南北戦争が終結するとすぐに,米国でもバナナが手に入るようになった。とはいえ,初めはぜいたく品で,キャビアと同じように,味を楽しむというよりは社会的地位を示すために消費されることが多かった(ただし,料理用のバナナのプランテーンはスペインの植民地時代から,ずっと南アメリカで主食として親しまれていた)。北アメリカで食されていたバナナは1本10セント——現在の約2ドルで,すでに皮をむかれてスライスされ,アルミフォイルに包まれた状態で売られていた。『バナナ,あるアメリカ史』の著者ヴァージニア・スコット・ジェンキンズによると,フォイルに包んであったのは,バナナのやや刺激的な形状によって,ヴィクトリア人のナイーヴな感受性を刺激しないためだったそうだ。皮をはがれ,熟しきって,大事に包装されていたバナナが,世界にこれほどまでに広がる日が来ようとは,当時は誰も思わなかっただろう。
ダン・コッペル 黒川由美(訳) (2012). バナナの世界史:歴史を変えた果物の数奇な運命 太田出版 pp.81-82
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