コロンビアの問題をすべてバナナ産業のせいにするのはフェアではない。だが,コロンビアをはじめとするラテンアメリカの国々では,バナナ関連の問題で軍事介入が行なわれた結果,常に国家体制が脆弱で,真の民主主義と適正な経済政策が根づくのが阻害された,という指摘は重要である。ラテンアメリカの政府が,一般の国民ではなく外国の民間企業に下支えされる伝統は,ユナイテッド・フルーツ社がもたらしたものだ。
こうした傀儡政権を擁する国家には名前がつけられた。中央アメリカの謎めいた架空の国を舞台にし,1905年に発表されたO・ヘンリーの「キャベツと王様」という短編のなかで初めて使われた言葉だ。しかし,O・ヘンリーが創作したこの言葉は,コロンビアの虐殺事件のあと,1935年に<エスクワイア>誌が,ラテンアメリカで米国が繰り広げた暴挙を年代順に記録した記事が発表されるまで,一般に広まることはなかった。この記事ではそうした行為を「非人間的」と書き,果物会社や米国政府にやすやすと従う小国家のことをO・ヘンリーと同じく「バナナ共和国(リパブリック)」と呼んだのだ。
ダン・コッペル 黒川由美(訳) (2012). バナナの世界史:歴史を変えた果物の数奇な運命 太田出版 pp.129-130
PR