バナナはまた,バイオテクノロジーの反対者がよく口にする,“自然はあと戻りできない”という問題とも関係がなさそうだ。遺伝子組み換えをした食品を自然環境のなかに解放すると,野生に奇妙な変異が発生し,将来的な健康への悪影響や環境破壊が懸念される,という問題がある。だが実際,そのような懸念はバナナとは無縁だろう。バナナは不稔である。子どもができない。食用のために遺伝子組み換えが行われたバナナは,種も花粉もない。道をはずれた作物が自然界に流入して,受精により旧来の作物を汚染するようなことは,バナナの世界では起こりえない(一方,世界じゅうの多くの場所で,トウモロコシにこの現象が起こっている。その地域の作物が交配によって雑種となり,もはやオリジナルの種を見きわめられなくなっているほどだ)。こうしたリスクが除外できるのなら,遺伝子組み換えバナナは,とりわけアフリカのような地で,どれだけの恩恵をもたらしうるのだろう。
ダン・コッペル 黒川由美(訳) (2012). バナナの世界史:歴史を変えた果物の数奇な運命 太田出版 pp.292
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