だが資本主義の収穫には少なくとも1つ,欠点がある。それは人々の本当に必要とするものを自動的に作りだしてはくれないということだ。資本主義が作るのは,人々が必要だと思っているものだ。みんなが本物の薬に喜んでお金を出すなら,資本主義は本物の薬を作る。でもみんながガマの油に喜んでお金を出すなら,ガマの油を作る。実際,19世紀のアメリカではインチキ特許による製薬が一大産業となっていた。1つだけ例を挙げると,ジョン・D・ロックフェラーの父であるウィリアム・ロックフェラーは巡業詐欺師だった。かれは馬車で町に乗り込み,ビラをまき,呼び込み屋を雇って自分の到来を告げ,町の広場で自分の奇跡の治療について講演を行い,ホテルの部屋で顧客に謁見した。ロックフェラーの父親には詐欺の才能があったようだ。かれの息子はその遺伝子をもっと建設的なものへと向けた。その事業もまた毀誉褒貶激しいものではあったが。
ジョージ・A・アカロフ/ロバート・J・シラー 山形浩生(訳) (2009). アニマルスピリット 東洋経済新報社 pp.38
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