十八世紀と十九世紀初め,ロマン主義の詩人たちのあいだに生じたこの亀裂は,今もわれわれとともにある。一方の陣営にとって,研究や探索は美を破壊するものであるのに対し,他方の陣営にとって,それは美を深めるものなのだ。物理学者リチャード・ファインマンはかつて,芸術家である友人に,芸術家は花の美がわかるのに,科学者は花の一部だけを見て,冷たく生命のない物質にしてしまうと難じられたことがあった。もちろんファインマンはそうは思わなかった。そこで彼はこう反論した。科学者である自分は,花の美しさがわからないどころか,芸術家よりもいっそうよくわかる。たとえば自分は,花の細胞の中で起こっている美しくて複雑な反応を理解することができるし,生態系における美も,進化のプロセスに花が果たす役割の美しさも理解することができる。「科学の知識は」とファインマンは言った。「花を見て楽しくなる気持ちや,なぜだろうと思う気持ち,そして畏怖の念を強めてくれるものなのだ」。
ロバート・P・クリース 青木薫(訳) (2006). 世界でもっとも美しい10の科学実験 日経BP社 p.127.
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