1920年代に起こったのはそういうことらしい。多くの人は本当に,自分たちの成功は自分が投資の天才だからだと信じていたようだ。それが単に,市場全体が上がっていたので何を買っても儲かっただけのことなのははっきりしていたはずなのだが。天才投資家の物語があっさり信じ込まれた。サミュエル・インスルは,当時の伝説の投資家だった。かれの会計士はのちにこう述べている。「銀行家たちは,雑貨屋が主婦にご用ききするみたいな感じで電話してきて,お金を押しつけようとしたんです。マッケンローさん,今日はいいレタスが入ってますぜ。インスルさん,今日は新鮮な緑のお金が入ってますぜ。1000万ドルかそこら投資なさりたい物件があるんじゃないですか?という感じで」。インスルが一見した成功をおさめたのは,多額の借入れによる投資のおかげだったので,大恐慌でそれが崩壊するとかれも破産した。
ジョージ・A・アカロフ/ロバート・J・シラー 山形浩生(訳) (2009). アニマルスピリット 東洋経済新報社 pp.98
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