そして統計はまさにそうした関係を示している——しかもかなり強く。経済学は,弱い相関がやたらに出てくる分野だ。国民所得や雇用に関するいちばん優れた経済モデルでも,明日の所得は今日の所得にトレンド調整をかけたもの(つまり所得はトレンドに対して「ランダムウォーク」),といういい加減な予測に比べて,ほとんどましにならない。教育と経験を併せても,週給差を比較的わずかしか説明できないのも知っている。だがそれに対し,失業が増えると,辞職ははっきりと経る。辞職と失業の間の単純相関だけで,変動の4分の3が説明できてしまう。失業が1パーセントポイント上がると,従業員100人当たりの辞職数は1.26件減る。この辞職率の変化は,失業がまさに市場の捌ける(市場が均衡する)金額を超える賃金によって生じているのだとわかる。これはもちろん,効率賃金理論の予測とずばり対応している。この見方によれば,失業が上がれば労働の需給ギャップが増す。既存賃金で働いている人々は,自分がラッキーだと悟る。転職したら給料がどうなるかがわからないから,いまの仕事をなかなかやめようとは思わない。
ジョージ・A・アカロフ/ロバート・J・シラー 山形浩生(訳) (2009). アニマルスピリット 東洋経済新報社 pp.156
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