こうした結果を一般化してみると,貯蓄を決めるに当たっては,文脈や観点がきわめて重要になってくるのは明らかだ。心理的な枠組みを考えれば,学生たちやハーバード大学の助教授が何を考えているかも見当がつく。両者の貯蓄に対する反応は自分がどんな存在であるべきかという目下の見方を反映している。新任のハーバード大学助教授を考えよう。博士課程を(やっとのことで!)終えたので,当然ながら誇らしく思っている。しかも職場はハーバード大学——世界の大学の頂点だ。考えるのは何よりも,ハーバードに採用してくれた期待に応えることだ——はるか将来の,こともあろうに引退後の話を云々している書類書きなんかどうでもいい。学生たちも似たようなことを内心で考えている。かれらが考えているのは,世界に華々しく打って出ることだ。その時点での思考の枠組みだと,貯蓄率について考えるなどというのは何か変なのだ。キャリアが始まってもいないのに老後を考えるなんて不適切に思えるわけだ。
ジョージ・A・アカロフ/ロバート・J・シラー 山形浩生(訳) (2009). アニマルスピリット 東洋経済新報社 pp.184-185
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