ときとして科学の水は,さらに研究を進めていくと濁ることがある。もっと複雑な状況やそれまで知られていなかった要因が掘り起こされるためだ。しかし,喫煙に関してはそうではなかった。1967年に新しい公衆衛生局長官が証拠を再検討したところ,結論はいっそう明確なものとなった。この報告書の冒頭には,2000件を超える研究が明確に指し示す3つの結果が書かれている。第1に,喫煙者は対応する非喫煙者に比べて短命で,病気がちであったこと。第2に,早く氏を迎えた喫煙者のかなりの割合が,もしタバコを吸っていなかったとすれば,もっと長く生きたはずであること。第3に,肺ガンによって早く死を迎えた人は,喫煙がなければ「実質的には誰も」それほど早く死ぬことはなかったはずであること。つまり,喫煙によって人々が死ぬ。それだけの単純な話だった。1964年以来,初期の報告書の結論に疑問を投げかけるような研究結果は得られていない。
ナオミ・オレスケス,エリック・M・コンウェイ (2011). 世界を騙し続ける科学者たち(上) 楽工社 pp.56
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