また,カウンターカルチャーのひとつとして栄えたものに,仏教やヒンズー教などキリスト教以外の宗教への目覚めがあった。1970年代には,曹洞宗の流れをくむ禅センターがサンフランシスコに設立されるようになる。早朝,5時から7時までの座禅と読経に参加したのは,当時はヒッピーが中心だった。自営農場で無農薬野菜を栽培して,玄米パンと菜食を徹底した。いまでもカリフォルニアの富裕層には仏教徒が少なくない。自宅のフローリングに金ぴかの仏像を持ち込む人もいれば,,仏陀の肖像画を壁や天井に埋め込んで,家族で座禅を組むなど,「アメリカ化」されたアプローチも当時と変わっていない。根底に東洋文化や哲学への興味があり,ヨガマットや座禅で使う「坐蒲」も西海岸から流通がはじまった。
つまり,なんらかのかたちでの信仰への関心は「保守」「リベラル」ともにもつものであり,福音派信者やキリスト教原理主義は保守派や共和党に多いものの,必ずしも信仰そのものが「保守」の専売特許ではない。「リベラル」にも信仰を熱心にきわめようとする人たちは多い。ニューエイジやベジタリアンのライフスタイルには,リベラルの「信仰」への接し方に別の意味での激しさもうかがえる。キリスト教の神を信じないとすれば,いったいなにを信じていけるかという深刻な模索がそこにはある。
渡辺将人 (2008). 見えないアメリカ---保守とリベラルのあいだ 講談社 p.155-156.
PR