観測衛星は,19世紀の地質学者が岩石を,生物学者がチョウを集めたのと同じような仕方で単にデータを「収集」するのではない。衛星は信号を検知して処理する。観測にかかわる電子技術とコンピュータ・ソフトウェアは非常に複雑で,ときには誤りも生じるため,「悪い」データをスクリーニングして取り除くことも手続きの中に含まれている。今回はそこに問題があった。観測データを処理するソフトウェアには,特定のレベル——180ドブソン単位——より低い値はオゾン濃度として現実的でなく,おそらく悪いデータであると見なし,フラグを立てるコードが含まれていた。成層圏でそこまで低い濃度は観測されたことがなく,既存の理論に基づくモデルでも生じ得ないことから,これは合理的な選択のように思われた。南極のオゾン濃度データの一部が180以下になったとき,それはエラーとみなされてしまった。計測器の科学チームは10月の南極上空にエラーが集中している地図を持っていたが,計器の故障だろうと考えて無視していた。彼らは装置を信用しすぎないという健全な態度のせいで,重大なデータを見逃してしまったのだった。
データを再度チェックしたストラースキーは,オゾンの減少した領域が南極全体を覆っているのを発見した。「オゾンホール」の誕生だ。それは計器の故障ではなく,実際に起きている現象だった。衛星によって検出されていたのに,予想を超えていたのだった。
ナオミ・オレスケス,エリック・M・コンウェイ (2011). 世界を騙し続ける科学者たち(上) 楽工社 pp.233-234
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