「悪い科学」は見れば分かる,と科学者たちは自信を持っている。それは明らかに欺瞞に満ちた科学だ。データが捏造されたり,ごまかされたり,操作されたりしている。都合のいいデータだけを採用して一部のデータを故意に放っておくとか,データをとったり分析したりした手順が読者に理解できないようになっているとかいうのは「悪い科学」だ。それは検証不可能な主張だったり,あまりにも少ないサンプルに基づく主張だったり,得られた証拠から引き出せない主張だったりする。また,ある立場を支持する者が不十分なデータや一貫しないデータに基づいて結論に飛びついている場合も,「悪い」科学か,少なくとも「弱い」科学だ(第4章で見たように,アメリカ科学振興協会(AAAS)のシャーウッド・ローランドは総裁演説で,ディキシー・リー・レイ,フレッド・サイツ,フレッド・シンガーが「悪い科学」に基づいてオゾン層破壊を疑ったことを明らかにした。彼らは明らかに間違った主張をし,広く手に入る公表された証拠を無視していた)。しかし,こうした科学の基準は原理的には明白かもしれないが,実際の場面でいつ適用すべきかということは,その時々で判断するしかない。そのために科学者はピアレビューを使う。ピアレビューというものは魅力的な話題になるはずもないが,これを理解するのはきわめて重要だ。なぜなら,これこそ科学を科学たらしめているものだからだ。それで初めて,科学は単なる意見の一形式ではなくなる。
ナオミ・オレスケス,エリック・M・コンウェイ (2011). 世界を騙し続ける科学者たち(下) 楽工社 pp.49-50
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