本書の主役たちがどんな理屈や正当化を持ち出すかはともかく,われわれの物語にはもう1つの重要な要素がある。それは,どうしてマスメディアの多くが——それも『ワシントン・タイムズ』のような一見して右派の新聞と分かるものだけでなく,主流の媒体も含めて——彼らと共謀するようになり,こうした問題を科学論争として取り上げる必要を感じたかということだ。ジャーナリストたちは否定派の専門家から,同等の地位——同等の時間,同等のニュースのスペース——を認めるよう,常に圧力をかけられていた。『タイム』誌の環境問題の記者だったユージン・リンデンは,『変化の風』(Winds of Change)という著書の中でこう述べている。「メディアで働く人々は,科学上の控えめな態度を科学の不誠実さとみなし,自分たちの反対意見が報告書に盛り込まれないと編集者に怒りの手紙を送りつけるような専門家たちに追い回されるようになっていた」。明らかに編集者たちはこの圧力に屈し,米国における気候についての報道は,そのために懐疑派や否定派の側に偏向するようになった。
ナオミ・オレスケス,エリック・M・コンウェイ (2011). 世界を騙し続ける科学者たち(下) 楽工社 pp.160
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