2004年に本書の著者の1人は,地球温暖化が存在し人間の活動が原因であることについて,科学者たちの間に意見の一致があり,1990年代半ばからずっとそうだったことを示した。それでもこの時期,マスメディアは地球温暖化とその原因について,大きな議論があるかのように扱っていた。偶然ながら同じ2004年に発表された別の研究は,1988年から2002年にかけての地球温暖化に関するメディアの報道を分析していた。マックス・ボイコフとジュールズ・ボイコフによるこの研究で,気候科学者の大多数の見解と,地球温暖化否定派の主張に同等の時間を割いている「バランスのとれた」記事は,メディア報道の53パーセント近くを占めることが明らかになった。気候科学者の多数を占める正しい立場を提示する記事は35パーセントあったが,残りは否定派にスペースを与えていた。こうした「バランスのとれた」報道は一種の「情報の偏り」であり,理想的なバランスを追及するとジャーナリストは,本来受けるに値する以上の信憑性を少数意見に与えてしまうことになる,というのがこの論文の結論だ。
科学の現状と主要なマスコミの科学の提示の仕方がこのように食い違っていることは,政府が地球温暖化に対して何もしないでいることの助けになった。1988年にガス・スペスは,実際に行動しようという勢いがあると思っていた。ところが1990年代半ばになると,この政策の勢いは衰えてしまった。雲散霧消したのだ。1997年7月,京都議定書が採択される3ヵ月前に,米国の上院議員ロバート・バードとチャールズ・ヘーゲルは,議定書の採択を阻止する決議を行なった。バードとヘーゲルの決議は97対0で上院を通過した。科学的には,地球温暖化は確定した事実だった。しかし政治的には葬られてしまった。
ナオミ・オレスケス,エリック・M・コンウェイ (2011). 世界を騙し続ける科学者たち(下) 楽工社 pp.161-162
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