銃をめぐる賛否は,共和党,民主党をこえた,アメリカ固有の文化に根ざした問題で,「アカデミック・リベラル」と「土着リベラル」でも見解が割れる。原因は狩りを行う「ハンティング」文化の根強さだ。
アメリカでは州法で認められた範囲で,シカや野鳥を狩りに行くことは,かなり広く浸透しているレジャーやスポーツだ。ごく一部以外では猟銃に触れることのない,現代の日本社会の観念からすると想像を絶する浸透度である。リベラルな民主党支持者であるはずのウィスコンシン公共放送のマイク・サイモンソン記者は「ハンティングはアメリカの伝統。自然との対話だ。父親が道で自動車の運転を教えるように,森で息子に教えるもので,暴力的な銃マニアのものではなく家族的スポーツだ」と擁護する。
このハンティング文化が銃規制推進の足を引っ張っている。穏健な北部諸州の民主党員のなかに,銃規制が勢いを増すといずれハンティングにも規制がかかるのではないかという疑念がぬぐえないからだ。NRAはハンティング文化をハンドガンなどの銃砲全体への規制反対のなかで巧妙に利用してきた。あくまで全米「ライフル」協会であり,全米「マシンガン」協会ではなくハンティング愛好のスポーツマンのための団体だというレトリックである。
渡辺将人 (2008). 見えないアメリカ---保守とリベラルのあいだ 講談社 p.164-165.
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